2. 室内音響が引き起こす問題
== デジタルプリアンプ事始め -室内音響編(2) ==
実際の室内音響特性
前回,わたしたちが実際にどのような特性の音を聴いているかは,各人の聴いている環境に大きく依存するので,測定してみないとわからない,というお話をしました.ではここで,ある部屋で測定された音の特性を取り上げてみます.
この図の見方ですが,横軸は周波数,音の高さですね.縦軸は各周波数に対する音の大きさ,つまり,この図は周波数ごとのボリュームを表していると考えて下さい.
アンプに入れた音は「緑の点線」で,均一な音です.しかし,その均一な音が耳に届いた時には「赤」や「青」特性の音に変化しているのです.ちなみに,赤は左のスピーカーの音を聴いた時,青は右のスピーカーです.
どうでしょう,現実にはこのように大きく乱れた音を耳にしているのです.スピーカーの特性もありますが,ほとんどは部屋の影響だと思われます.
現実に耳にする音の周波数特性は大きく歪んでいる
まずわかるのは,やけに凸凹しているなあということ,左右の特性がそろっていないことです.これはスピーカーの個体差かもしれませんが(たぶん高域はそうかもしれません.赤が若干大きな音で鳴っています),部屋の状況が左右異なっている可能性が大きいです.実際,片方の壁には窓があったり,反対の壁には本棚があったりして,部屋の左右の状況が違います.これが影響しているのでしょう.
また,一口にアンプのボリュームを上げて/下げてといっても,現実的にはこの複雑なカーブ全体が上下するだけで,細かく見ると,ある周波数の音は大きいけど,ある周波数の音は小さいということがわかります.さらに,気になる点を見ていきましょう.
低音の特性は大きく乱れている
まず,一番気になるのは低音の聴こえ方です.アンプが同じ大きさの音を出そうとしているのに,実際は赤(左)の場合だと 40 Hz の音の大きさと 68 Hz の音の大きさの差が 25dB もあります.25dB というのを普通の言葉で言えば 4 倍違うということです.
音楽制作者は同じ大きさのベース音を意図して作っていても,実際耳にするのは,68 Hz の音は 40Hz の音よりも 4 倍も小さな音になって聴こえているのです.逆に言えば,40 Hz の音は 68Hz の音の 4 倍の音量で聴こえているのです.これはかなりデフォルメされた音で原形をとどめていません.皆さんも特定の低音が強調され,やけに響いて聴こえるなあ,と感じたことがあるのではないでしょうか.よくブーミーといわれる音のことです.
同様に高域(1000Hz以上)のうねりも,10dB = 1.7倍 ほどあり,無視できません.音楽制作者の意図した音楽よりはデフォルメされたものになります.また,この帯域の音は,音の暖かさとか,生き生きとした音とか,明るい音/暗い音など,音の表情に関わる部分なので,二重に大きな問題となります.
これらが室内音響によりもたらされる問題の一つです.