ネット時代のデジタルプリアンプを作ろう

aeolian design tech blog (https://www.aeoliand.com) 室内音響 音場補正 Dirac Live の話題です

Dirac Live の使いこなし(2)-ターゲットカーブ編

 

音楽のリスニング体験,特にサウンドステージを向上させる強力なソリューションである Dirac Live ですが,その初期設定として普通のステレオユーザーにはなじみのない作業をしなければいけないことが唯一の問題です.それは,

  • 室内音響の測定
  • 自分に合ったターゲットカーブのデザイン

です.

 

室内音響の測定については前回お伝えした通りです.

aeoliand.hatenablog.com

 

今回は Dirac Live をフルに活躍させるためにとても大切な「自分に合った」ターゲットカーブのデザインについてお話します.

自分に合ったターゲットカーブと言われても知っている人はあまりいないでしょう.

Dirac Live のターゲットカーブとは

なぜターゲットカーブのデザインが必要なのでしょうか.

まず,そもそもなぜ Dirac Live が必要とされるのかを振り返ってみましょう.

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多くの人はスピーカーから出た音がそのまま聴こえていると思っていますが,これは大きな間違いです.残念ながら音は見えないのでマイクを使って測ってみると,スピーカーから出たきれいな音が耳に届いたときは大きく歪んでいるのです.

上の図は典型的なパターンで,スピーカーから出たフラットな特性の音が耳に届いた時には低音に大きな変動(約 20dB程度※)が加わり,左右の特性も異なり,また時間特性も変化しており,その結果,音源本来の素晴らしい音を聴くことはできません.

 

室内音響問題とはなにか? - ネット時代のデジタルプリアンプを作ろう

※ dB(デシベル)については以下のページの一番下を参照ください.

エオリアンデザイン 室内音響 Dirac Live FAQ よくある質問 - Dirac Live

 

これはスピーカーから出た音が(目には見えませんが)壁からの反射で少しずつズレ重なって耳に届く,つまり音が時間的にブレて,それが特性にも波及しているからです.

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イコライザーや音場補正などで周波数特性だけを調整してもサウンドステージにつながる時間特性は悪化したままですが,Dirac Live は耳に届く音の時間特性を重視しながら,音源本来の音に復元するような最適化をほどこす点がユニークです.

その場合ターゲットカーブはフラットなものにすべきですが,(後半で詳しく説明しますが)一人ひとりの耳の特性は異なっているし音の好みも違うので,どうせ最適化するなら自分の好みの音にしたいという要望に応えたものです.その好みの特性をデザインするのが目的です.

 

音の問題のレベル

音の問題を扱うときに気をつけなければいけないのは,問題のレベルを把握して,大きな問題から手を付けるということです.

以下は問題を引き起こす要因を,それが音の特性に与える変動の大きさでまとめた図です.

 

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音の問題は大きく2つに分類できます.1つは測定器にかかる大きな問題,もう一つは測定器にはかからないが人間の耳では違いが分かるというものです.

人間の耳は測定器よりも優れていて,皆さんも巷でケーブルを変えたら音が変わったというような話を耳にしたことがあると思います.また,スピーカーの選択は音に大きな影響があるという話も上の図からうなずけます.

しかし一番大きな問題はやはり室内音響の問題です.ケーブルや機器の交換でも音は変わりますが,室内音響問題の解決による変化はさらに大きなものになります.それと同時に,ケーブルの違いを判別する繊細な耳のために,最適化のレベルを1dB 単位で追い込んでいかなければなりません.

これでターゲットカーブのデザインがどれほど大切かお分かりいただけたのではないでしょうか.

 

具体的なターゲットカーブデザイン

ここまで読んでこられた方はターゲットカーブのデザインは面倒な作業だなと思われたかもしれません.

(※ プロ用途,スタジオでの音源制作ではフラットな特性が好まれるようです.以下はホームオーディオでの話になります)

 

Dirac カーブ

しかし安心してください.測定データをもとに Dirac Live がお勧めのターゲットカーブを以下のように提案してくれます.

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この場合,ターゲットカーブをデザインする必要はありません.

まずはこれで試しに聴いてみてください.

 

どうでしょう.自分の求める音とちょっと違うなと感じるようであれば,以下に世界的に好まれているターゲットカーブを4つご紹介しますので,いろいろ試してみてください.このとき Dirac Live が自動的に推奨している低域側のカーテンの位置(最適化フィルター適用範囲の閾値)は変更しないことをお勧めします.

後で詳しく説明しますが,一人ひとりの耳の特性は異なっているし音の好みも違うので違和感があっても当然です.

ちなみに Dirac Live Processor のフィルターバンクには8つのフィルターが登録できるので,最初にいくつか作っておいて後でまとめて比較するのもよい方法です.

もしご使用のプレーヤーが JRiver Media Center なら音楽を再生している最中にフィルターの切り替えが瞬時にできるので比較が簡単です.

 

世界的に好まれているターゲットカーブ

 

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以上,Dirac カーブを含め,Type A, B, C, D と5つのターゲットカーブがあります.

 

管理人お薦めの手順としては,

① 5つのターゲットカーブでフィルターを生成する

② 5つのターゲットカーブを試聴して,その中から自分の好きなものを1つ選ぶ

③ 必要であれば,それを基準に微調整をする

 

ターゲットカーブの微調整

多くの人は以上でご紹介した5つの中のお好みのもので大丈夫だと思いますが,さらにカスタマイズしたいこだわり派もいると思いますので,微調整の方法をお伝えします.

先ほどお話した通り,人間の耳は測定器よりも性能が良く(特にケーブルの音の違いを聴き分ける方は)1dB以下の違いを聴き分けます.そのため微調整は細かく行ってください.

例えば,基準となるターゲットカーブに Type B を選択した人は,標準が 20KHz で -3dBですが,もしこの設定の音が耳にややきつく聴こえるというのであれば,これを -4dB,-5dB,-6dB, -7dB,-8dB と複数用意し,聴き比べをして自分の好みの音を見つけて下さい.

微調整のポイントとしては,

  • まず基準となるターゲットカーブを決める
  • 聴き比べの箇所(低域,高域)の目標点を絞って,1~2dBずつ変えたターゲットカーブを複数用意する
  • 聴き比べて,その中から自分の好みのものを選ぶ
  • その後,別の聴き比べの箇所の調整に移る

面倒な作業のようですが,このレベルにまで音にこだわる方には報われる作業だと思います.ぜひ自分の好きな音を見つけて,より良い音楽を楽しんでください.

「よい音」とは

誰もがよい音を求めますが,「よい音」とは何でしょうか.

管理人はみんなが認める「よい音」はないと思っています.

これは料理やファッションとまったく同じで,一人ひとりに「好きな音」があるだけだと思います.だから,評論家や友人が良い音だといってもそれはその人の好みなので,自分はよい音に聴こえないことは往々にして起こり得ることです.

そうすると「よい音」を求めるとき,自分の「好きな音」が分かっていなければ,いくら雑誌を参考にしてもよい音にめぐり合えないでしょう.

リンゴの種類をいくらあたっても,その中にミカンはないのです.

その要因はどこにあるのでしょうか.

 

一人ひとり耳の特性が違う

周波数特性に限っていえば,耳の特性は人によって,また年齢によって大きな違いがあります.

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上の図は 2012年に発表された論文からの引用ですが,352人の男女の耳の周波数特性を年齢別に示したグラフです.横軸が周波数(右に行くほど高い音),縦軸が感度(上に行くほどよく聴こえない)です.

どうでしょう.例えば 15kHz の音を見てみると,60歳の人は 20歳の人に比べて約 60dBも感度が悪くなっています.もし雑誌で 60歳の人が評論記事を書いているとしたら 20歳の人はその記事をどのように受け取るべきでしょうか.

しかし,これは周波数特性の話で時間特性はその限りではないようです.そのため大きな破綻なく音楽を楽しむことができます.この事実は音楽を聴くにあたって音の時間特性の大切さを示しています.ご年配の方も安心してください.

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一人ひとり音の好みも違う

上に示したように年齢によって音の聴こえ方が違うという事実と多少は関係していると思われますが,周波数特性の傾向にもいろいろな好みがあることがわかっています.

 

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これは年齢もありますが,普段の生活環境,音楽への接し方など様々な要因によって好みの音が違います.

ここでもやはり自分の「好みの音」が分かっていないと話がまったくかみ合わなくなります.もし「落ち着いた音」が好きな評論家が勧めた製品を「ドンシャリな音」が好きな人が購入すればどうなるでしょう.

やはり一番大切なのは自分の「好きな音」を理解して,それを求めることに尽きるのではないでしょうか.それはつまりターゲットカーブのデザインにつながるし,逆にそれをすることで自分の「好きな音」がはっきりと分かったりもします.

一方,音楽に大切な時間特性はどうなったのでしょう.これは個人の好みはあまり関係なく万人に求められる性質が決まっているので Dirac Live による最適化にまかせましょう.

 

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以上となります.

ここで皆さんから募集したいことがあります.

日本人好みのターゲットカーブの研究はあまりないようです.ぜひ自分の好みのターゲットカーブを投稿/ご連絡ください.よろしくお願いします.

 

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